「ステージⅢ-前期なら全摘出手術が可能です」と言われても?

突然だが、今月8月の1日から15日まで抗癌剤治療のため入院した。

肺癌であることが判明した2022年は都合3回入院して治療を受けた。長期の入院は8月17日から10月6日まで、51日に及んだ。そして翌23年5月に再発したため4回の入退院で、違う種類の抗癌剤治療を受けた。癌は上葉(上)と下葉(下)の2カ所にあり、再発したのは上葉の癌だった。しかし治療の結果、特にキイトルーダ(免疫チェックポイント阻害剤)とパクリタキセルの化学療法の併用は扁平上皮癌に効果があったようで、24年になってからは3週間に1回の通院で上葉の癌は小さくなっていた。

ところがこのキイトルーダ、上葉の癌には効果があったものの、7月5日のCT検査の結果、今度は下葉の癌が肥大していると言われた。ドクター曰く「上葉と下葉の癌では、抗癌剤の効果が違うようだ。上葉の癌にはキイトルーダの効果があったが、下葉の癌には効かなかった可能性が高い」ということで、また別の抗癌剤治療のため入院することになった。せっかく24年は順調に回復しているようで、「もう入院はないだろう」と高をくくっていただけにトホホである。

最近テレビで癌保険のコマーシャルを見かけるが、「時間とお金がかかる」ことを、身をもって体験している。せめてもの救いは高額療養費制度のおかげで自己負担の限度額が低く抑えられていることだった(年収に応じて算出される)。

8月に受けた抗癌剤は、2度使用しないと効果は現われないという。このため退院してから3週間後の9月の第1週の入院を勧められた。しかし9月の第1週、5日はW杯アジア最終予選のホーム中国戦がある。さらに10日はマナマに乗り込んでのバーレーン戦が控えている。のんびり入院しているわけにはいかない(さすがにマナマには行かないが)。そこで1週間遅れの9月12日に入院することにした(予定)。

いつ退院できるかというと、この抗癌剤は白血球がダメージを受けることで免疫力が低下して感染しやすくなる。そこで血液検査で白血球の数値が上昇するまで退院の許可は出ない。8月の入院時も感染症になり、37度台後半から38度台前半の発熱が1週間ほど続いたため、朝晩2回の抗生剤の点滴と、白血球の数値を上げる皮下注射を打つことでようやく退院の許可が出た。

さて、ここからは前回の続きをお届けしよう。

肺炎は点滴治療のおかげで完治して22年の7月9日に無事退院した。しかし癌の治療はこれからである。14日にMRI検査、15日は血液検査とレントゲン撮影、そして午後からドクターとのカウンセリングである。この時は実兄2人も同席した。

入院時に癌であることを教えてくれた男性のYドクターは、「上葉と下葉ともステージⅢの前期の癌であること。Ⅲの前期のためまだ外科的手術が可能である」ことを淡々と話す。そしてすでに2週間後に手術の予定を入れているとのことだった。

すでに癌であることは、肺炎の治療で入院した際に聞かされていた。その時は発熱もしていて記憶が定かではなかったが、詳細を聞く余裕はなかった。ただ、去年まで毎年のように区の無料の健康診断(X線)を受けていて、肺には何の問題もなかったので、てっきり肺癌でも初期の段階で「ステージ1くらいかな」と勝手に思い込んでいた。癌と聞かされても特にショックを受けたわけではない。「ああ、そうなんだ」と、漠然に思っただけだった。このため内視鏡による手術などで簡単に除去できると思い込んでいた。

ところがYドクターは、「上葉と下葉にあるため、右肺は全摘出手術になります。手術後は退院しても24時間、酸素ボンベをつけた生活になる可能性が高い」ということだった。こちらの方がショックは大きかった。まさに「ガ~ン」である。

実は長兄も私と同様に若い頃はヘビースモーカーだった。このため10年以上前に上葉の肺癌を手術で部分摘出していた。その結果、時折一緒に外出しても階段の昇りは息苦しくなるため、遠回りしてでもエレベーターかエスカレーターを探すのを常にしていた。

部分摘出でも階段の昇りは息苦しくなるというのに、全摘したらまず間違いなくサッカーはできなくなるだろう。現役(といってもオーバー60のシニアサッカーだが)引退である。

まして酸素ボンベをつけながらサッカーの取材ができるのだろうか?

最初に思い浮かんだこちらの方が素朴な疑問だった。スタジアムまで自家用車で行けたとしても、駐車場からメディア受付まではかなり歩かされる。そしてどのスタジアムでも記者席は上層階にある。埼玉スタジアムと等々力スタジアムはエレベーターがあるものの、ほとんどのスタジアムは徒歩での昇り降りだ。日産スタジアムは5階ぶんの階段を昇り降りしなければならない。

酸素ボンベを抱えて昇れるだろうか。スタジアムによってはトイレが1階にあるところも多い。そのたびに往復しなければならないとなると、考えただけで憂鬱になる。

そもそも酸素ボンベをつけているような人間に仕事の依頼があるのだろうか。私が編集者だったら、「無理はしないで自宅で静養してください」と言うだろう。それが世間一般の常識ではないだろうか。

なんとか切らないで治療する方法はないか。これはネットで調べて後から知ったのだが、片肺の全摘出手術はその前に肋骨を3~4本切り取るらしい。つまり身体の右側はペッチャンコになってしまうようだ。

とりあえずYドクターには「セカンドオピニオンを聞いてみたい」と伝えて、外科的手術での治療はとりあえず断ったのだった。