残念でならない森永卓郎さんの逝去

今月28日、闘病生活を続けていた経済アナリストの森永卓郎さんが逝去されました。享年67歳、1957年生まれで僕とは同い年です。森永さんが膵臓癌をカミングアウトしたのは23年暮れのこと。僕の治療から1年遅れの発病でした。すでに余命宣告を受け、抗癌剤治療を受けたものの身体に合わず、かなり副作用に苦しめられたと著書「がん闘病日記」にも書かれていました。

 

その後は自費50万円での血液パネル検査で、膵臓癌ではなく癌細胞がどこにあるのかわからない「原発不明癌」であることが判明。僕のように右肺にあることがわかれば、外科的手術も可能ですし、放射線を直接照射して癌細胞を退治する治療方法もありますが、「原発不明癌」は現在の医療では抗癌剤しか効果はあまり期待できません。

 

副作用に苦しめられながらも執筆活動を続け、ラジオ番組にも出演する姿には頭が下がる思いと同時に勇気づけられたものです。かなりお痩せになり、ここ数日は食事も満足に摂ることができないとラジオを通じて病状を報告していました。

 

私事で恐縮ですが、僕も主治医に「あと何年生きられますか?」と聞いたことがあります。するとドクターは「余命3ヶ月とか半年と告げるドクターがいますが、ほとんどはテレビドラマの話で、あと何年生きられるかは我々にもわかりません。いまの六川さんは食事も摂れていますし、介護を必要としていません。サッカーの取材やご自身もプレーを楽しむなど、普通の癌患者さんよりかなり活動的です。ただ、癌の治療中であることは忘れず、無理はしないようにして下さい」と言われました。

 

森永さんはすでに要介護3でした。そして最近は食事も摂れず痛みを抑える緩和ケアも受けていました。たぶんご自身の死期を悟っていたのでしょう。それでも最後まで生きる意思は失っていませんでした。見事な最期だったと思いますし、改めて哀悼の意を表します。

 

さて僕の話に移ると、昨年10月に入院して初めて投与されたゲムシタビンで、これまでと違う経過がありました。

 

点滴から4日後前後に発熱し、薬疹という薬による湿疹、腰痛という副作用はこれまでの抗癌剤と同じでした。ところが今回は、初めて空腹を覚えるようになったのです。

 

朝食のクロワッサン2個とスープ、ポトフなどの副食とフルーツ、そしてパック牛乳では物足りないため、いつも起床後の検温、血圧の確認後は売店へ行って新聞と菓子パンを購入するのが常でした。昼食や夕食も物足りず、カップ麺やお菓子などを買い置きしては食べるという2週間の入院生活でした。

 

僕自身、50代後半までは62キロがベストの体重で、20代から増減はなかったのですが、60代に入ると増えた酒量に反比例して食事の量が減り、57キロが通常の体重になっていました。それは22年から始まった入院生活でも変わらず、禁酒は当然ですが、日常生活ではありえない(自慢いているわけではありません)1日3食の規則正しい食事でも同じでした。

 

ところがゲムシタビンでの治療期間中は食べる量が増えたため、体重計に乗ると日に日にデジタル表示が上昇し、ベストの62キロまで戻りました。もちろん初めてのことです。「もしかしたら、この薬は自分に合っているのではないか」と、ちょっと期待しました。

 

1週間おきに2回のゲムシタビン投与を終え、入院中はいつものように白血球の数値が低下したので皮下注射で数値を上げて11月6日に退院。しかしゲムシタビンは4回の投与で1クールのため、11月22日と29日に通院で治療を受けました。そして12月12日、治療の効果を調べるCT検査を受けました。

結果は翌週の20日、効果があれば治療を継続するし、効果がなければどうするのか。といっても、僕にできることは何もないので、普段通りの生活をしただけです。14日は中村憲剛氏の引退試合、15日はイニエスタ氏の引退試合であるバルサOB対レアルOBのレジェンドマッチを取材するなど、いつもと変わらない生活スタイルを続けるだけでした。

 

ただ、前述したように退院後も食欲は旺盛で、一日の食事回数は2回と変わらないものの量が増えました。おかげでいま現在も体重は61~62キロ台をキープ。ただ、退院後に初めてシニアのサッカーに参加した際は、「身体が重い」と実感しました。これも初めての経験です。

 

これまで痛飲した翌日のシニアのサッカーでは、頭が脚を出すように指令を出しても身体がそれに反応するまでにタイムラグがあり、簡単に抜かれていました。ところが禁酒したことで、頭からの指令がダイレクトに脚につながることを初めて知りました。お酒を断てば頭と身体がリアルタイムで反応するのを知ったのは新鮮な驚きでした(当り前ですね)。

 

そしていまは、増えた体重に見合う動きができるためには筋トレが欠かせないと思って無理せずトレーニングしています。体重の維持のためには脂肪ではなく筋肉量の増加も必要と、肉以外でタンパク質を摂れるよう食生活も変えています。「この歳で」と思われるかもしれませんが、これまで無頓着で怠惰な生活を送ってきただけに、こうした変化も癌にならなければ気付かなかったでしょう。

 

癌になって良かったとは思いませんが、様々なことに気付かされ、改善するための時間があるのは不幸中の幸いだと思います。森永さんのように、どこまで前向きに生きられるか。自分自身が試されている日々の生活でもあると思っています。